01
空き地問題
現実に私たちが生活している目の前に荒廃としか思えない土地に囲まれた場合、どう向きあえばいいのでしょうか?長崎市では「車みち整備事業」など、整備計画が立てられ安全・安心のまちづくりが進められています。そのことを否定しませんが、それぞれの町には、それぞれの生活形式があり、コミュニティがあります。これを維持するには、共同で行う地道な作業でしかないと思います。しかし、みんなで同じ作業をするのではなく、それぞれが楽しいと思える作業を自発的におこない、その周辺の人にとって穏やかな生活を過ごせるとすれば素敵だと思いませんか?私は園芸的手法により空き地問題を少しでも軽くできればと願っています。その詳細についていろいろな角度から検証を進めていきます。
02
グリーンインフラ
空き地はあくまでも私有地なのですが、地権者の協力のもと地域景観や環境の点から一時的、流動的ながら共有地として捉え直し、面積が狭いので一人でも管理ができるグリーンインフラ(「自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方」 国土交通省HPより)として多様性の維持、コミュニティ希薄化の低減を目指し、さらに地域にふさわしい風景を生み出すために園芸という手段を使った植生管理をしていく活動です。グリーンインフラを目指していますので、モザイク状に面的に展開することが重要と考えています。
03
新しい生態系をつくる
一般的な花壇との違いから新しい生態系をつくることを考えます。
-
植え替えなど管理作業を減らし、自然に任せるように努める。
-
野鳥や昆虫など動物との関係性にも関心を持つ。
-
侵略的外来種の使用、侵入を避ける。
-
現地の環境にあった植物を選び、極度な土壌改良をしない。
-
植栽計画から管理まで、すべてにおいてデザイナー(管理者)が主体的に決定することで、生態系を考慮した管理に一貫性を保つ。
04
場所選び
長崎市内の傾斜地には、車が入らない、傾斜がきついなどの理由から、空き家、空き地が増加している地域があります。弊社モデルガーデンを設置している中新町はそのようなことが喫緊の課題となる地域の一つです。地域の方の協力と、地権者のご理解を得て空き地をお借りし、活動の範囲を広げていきます。日照条件、水の確保、廃材の処理方法、土壌の性状、雑草の種類などを確認します。
05
雑草
雑草の扱い方はデザイナーにより異なります。除草剤の使用は生態系という言葉の前では抵抗があるかと思いますが、侵略的外来種を手抜きで処理するのはなかなか手ごわい作業です。除草剤使用量を少なく対応することは長い目で見ると、生態系に貢献できると考えることができます。時折、多様性と、持続可能性について振り返り、管理方法を見直していくことが大事かと思います。
06
造成工事
景観、排水、通路などデザインが必要となります。空き地にはかなりの解体時に発生した様々なガラが土中にあります。植栽管理出来る範囲を決定し、その範囲内のみを造成するのを基本とします。管理能力を超える範囲を造成すると、生態系を荒らすことにつながることもあるので、植栽計画と合わせて、適切な工事内容を検討します。
07
植栽計画
新しい生態系をつくるためには、単に好きな植物を植えても達成できません。日照条件、土壌の保水性、雑草が生えにくいような植栽構造、長期にわたって花が咲くような品種の選定、侵略的なふるまいのある品種の排除などを十分に検討します。わからないものはインターネットの情報を参考にすることもできます。最後は、実際に育てながらの試行錯誤です。ポット苗を植え付けるのが管理しやすいのですが、直播による方法も検討の余地があります。
08
管理(マネージメント)
生態系に配慮した管理は、通常の維持管理とは異なり、維持よりも植物が望む成長をなるべく優先するので、マネージメントという言葉が近いかもしれません。設計で決まった配置を維持するのではなく、植物の状況を観察しながら管理の仕方を決定していきます。
09
参考文献
-
Thomas Rainer and Claudia West 2015 Planting in a Post-wild World
-
James Hitchmough 2021 Sowing Beauty
-
Kelly D. Norris 2021 New Naturalism
-
宮城俊作 2022 庭と風景のあいだ